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松尾 芭蕉(まつお ばしょう)
・説明:1644−1694年 51歳没 三重県伊賀市出身 本名:松尾宗房(むねふさ)
    江戸時代前期の日本史上最高の俳諧師の一人 俳号:桃青(とうせい)

奥の細道 序文

 月日は百代(はくたい)の過客(かかく)にして行かふ年も又旅人也。  
 月日というのは、永遠に旅を続ける旅人のようなものであり、来ては去り、去っては来る年もまた旅人である。
※百代:永遠

 舟の上に生涯をうかべ
 船頭として一生涯船の上で過ごす人

 馬の口とらえて老をむかふる物は
 馬子として馬の轡(くつわ)を引いて老いを迎える者は

 日々旅にして旅を栖(すみか)とす。 
 毎日旅をして旅を住処(すみか)としているようなものである。

 古人も多く旅に死せるあり。
 古人の中には、旅の途中で命を無くした人が多くいる
※古人:ここでは、単に昔の人ではなく芭蕉が尊敬する西行、宗祇、能因法師、杜甫、李白な

 予もいづれの年よりか片雲(へんうん)の風にさそはれて、
 私もいずれの年か、ちぎれ雲が風に身をまかせ漂っているのを見ると、

 漂白の思ひやまず、海浜(かいひん)にさすらへ、 
 漂泊の思いを止めることができず、海ぎわの地をさすらい
※漂泊:一定の住居や生業なしにあてもなくさまよい歩くこと。 

 去年(こぞ)の秋 江上(こうしょう)に破屋(はおく)に蜘の古巣をはらひて
 去年の秋は、隅田川のあばら屋に帰って蜘蛛の古巣を払い、
※江上:水辺や湾   ※破屋:こわれた家。あばらや 

 やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと
 しだいに年も暮れて、春霞がかる空に、白河の関を越えてみようかなどと思う

 そゞろ神の物につきて心をくるはせ
 さっそく「そぞろ神」がのりうつって心を乱し
※そぞろ神:人の心に取りついてなんとなく誘惑する神  

 道祖神(どうそじん)のまねきにあひて、取もの手につかず。
 おまけに道祖神の手招きにあっては、何も手につかない有様である。
※道祖神:路上の悪霊・邪神から旅人を守り、旅の安全を守る神。村境・峠や辻などに祭られる。

 もゝ引の破をつゞり、笠の緒付かえて、三里に灸すゆるより、
 ももひきの破れをつくろい、笠の緒を付けかえ、三里のつぼに灸をすえて旅支度をはじめると、
※三里に灸す:灸のツボ。膝の関節の10cm程下 外側のくぼんだ処に灸をすえると健脚になる。

 松島の月先心にかゝりて  
 松島の名月がまず気にかかって、

 住る方は人に譲り、杉風(さんぷう)が別墅(べっしょ)に移るに、
 住まいの方は人に譲り、旅立つまで杉風の別宅に移ることにして、
※杉風:杉山市兵衛、芭蕉の最も信頼していた弟子の一人

 草の戸も 住替(すみかわる)代(よ)ぞ ひなの家
 草葺き戸の家も、新たな住人を迎える。節句の頃には、雛を見られるのであろう

 面八句(おもてはちく)を庵(いおり)の柱に懸置(かれおく)
 発句を詠んで、面八句を庵の柱にかけておいた。
※表八句:連句の最初の8句のこと。これらを第1ページ目に書くところから表八句という。
 ただし、この表八句は現存していない。