これらは素樸なアイヌ風の木柵であります
詩ノート 一〇六三より
これらは素樸なアイヌ風の木柵であります えゝ
家の前の桑の木を Yの字に仕立てて見たのでありますが
それでも家計は立たなかったのです
四月は 苗代の水が黒くて くらい空気の小さな渦が
毎日つぶつぶそらから降ってそこを烏が があがあ啼いて
通ったのであります どういふものでございませうか
斯ういふ角だった石ころだらけの いっぱいにすぎなや
よもぎの生えてしまった畑を 子供を生みながらまた前の子供の
ぼろ着物を綴り合せながらまた炊爨と村の義理首尾とをしながら
一家のあらゆる不満や慾望を負ひながら
わづかに粗渋な食と年中六時間の睡りをとりながら
これらの黒いかつぎした女の人たちが耕すのであります
この人たちはまたちゃうど二円代の肥料のかはりに
あんな笹山を一反歩ほど切りひらくのであります
そして ここでは蕎麦が二斗まいて四斗とれます
この人たちはいったい牢獄につながれたたくさんの革命家や
不遇に了へた多くの芸術家 これら近代的な英雄たちに
果して比肩し得ぬものでございませうか
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